社会参加に必要な支援~失語症~
- sankatsu0901
- 1月5日
- 読了時間: 5分
私は言語聴覚士として、脳卒中を発症した直後の「急性期」から、最も集中的にリハビリを行う「回復期」、そして退院後の外来リハビリや在宅での訪問リハビリ、通所リハビリまで、さまざまな時期の失語症の方のリハビリに携わってきました。今回は、在宅生活を送られている失語症の方との関わりの中で、私が実際に感じてきたことについてお話ししたいと思います。
失語症とはどのような障害でしょうか
みなさんは「失語症」という症状をご存じでしょうか。失語症とは、脳卒中などによって脳の言語をつかさどる部分が損傷され、話す・聞く・読む・書くといったことが難しくなる障害です。
外見からは分かりにくく、実際に会話をしてみて初めて気づかれることが多いため、「見えない障害」とも言われています。そのため、周囲の理解や支援が十分に行き届きにくいという課題があります。失語症のある方は全国に約50万人いるとされ、毎年約6万人が新たに発症しているとも言われています。
退院後、失語症の方はどのように生活しているのでしょうか
失語症の程度が軽い場合、ほぼ元通りの社会生活を送られている方もいらっしゃいます。一方で、コミュニケーションへの不安から社会参加が難しくなっている方も少なくありません。
退院後も、外来リハビリや訪問リハビリ、通所リハビリなどのサービスを利用されている方は多くいらっしゃいます。それでもなぜ、社会参加につながりにくいのでしょうか。そして、社会参加のためにはどのようなサポートが必要なのでしょうか。
社会参加を難しくしている「環境の壁」
私たちの日常生活には、友人と出かける、仕事をする、家族と会話をするといった多くのコミュニケーションの場面があります。そこでは、複数人で同時に会話をする力が求められます。
一方、入院中のリハビリは多くの場合1対1で行われ、ゆっくりとしたやり取りが可能です。しかし退院後の社会生活では、同じ環境が用意されているわけではありません。失語症について知っている人はまだ少なく、会話のスピードや伝え方は「これまで通り」であることがほとんどです。
つまり、社会の側が失語症の方に合わせるのではなく、失語症の方が「健常なコミュニケーション能力」を前提とした社会に合わせることを求められている構造があると感じています。
社会との「つなぎ役」がいないという課題
もう一つの課題として、社会とのつなぎ役が不在のまま退院してしまうことが挙げられます。言語聴覚士は、制度上「訓練を行う専門職」として位置づけられており、友人との集まりや職場など、実際の社会参加の場に同行して支援することは、正式な仕事として認められにくい現状があります。
そのため、社会に出る場面でのサポートを継続することが難しくなっています。
機能が改善しても、社会参加につながらない現実
リハビリで言語機能が改善しても「これだけ話せるようになったから、次は〇〇に参加してみましょう」と伝えるだけで行動に移せる方は、ごく一部です。多くの場合、退院後に復職を断念されたり、友人との交流が減ったり、自宅に閉じこもりがちになってしまいます。
介護サービスを利用していても、十分なコミュニケーションが取れず、せっかく回復した機能が再び低下してしまう方を、私は何度も見てきました。
こうした経験から、社会参加には機能訓練だけでなく、実際のコミュニケーション場面での直接的なサポートが必要だと考えるようになりました。
社会参加を支えるための関わり方
まず大切なのは、信頼関係づくりです。不安や希望、生活背景を丁寧に整理し、言葉にならない感情にも目を向けます。ここは社会参加の土台となるため、時間をかけて行います。
次に、「できるかもしれない」という感覚を持ってもらうことが重要です。そのため、リハビリ内容はその方の人生に合わせて、完全にカスタマイズする必要があります。
そして、実際に同行するなどして社会とのつながりを調整し、最終的には言語聴覚士がいなくても続けられる状態へと導いていく必要があります。
フリーマーケット出店の事例
具体的な事例として、フリーマーケットに出店された方のお話を紹介します。右片麻痺(利き手)が残っている利用者さんでしたが、「新しい趣味を見つけたい」という思いから、パワーストーンのブレスレット作りを始めました。
当初は販売を考えておらず、合格祈願や恋愛成就などの思いを込めて知人に配っておられました。しかし、次第に作品のクオリティが高まったため、私から「販売してみませんか」と提案しました。
言語機能は改善してきていましたが、知らない人と話すことへの不安は強く、最初はためらっておられました。そこで「不安なら一緒にやってみましょう」と伝え、改善した数値を示したり、前向きな声かけを行ったりし安心感を作っていきました。
その後、石について学んだり、商品の見せ方を工夫したり、SNSを始めたりと、生活に即した実践的な言語リハビリにもつながりました。当日は一緒にブースに立ち、不特定多数の方とのやり取りという高いハードルにも、支援があることで挑戦することができました。

おわりに
この事例を通して、失語症の方が社会参加していくためには、言語機能の改善に加えて、コンビニへ行く、友人とお茶をする、就労するなどその方に合った社会参加の場を選び、理解のある人が行動を共にすることがとても重要だと感じています。
最初の一歩は一緒に踏み出し、成功体験を積み重ねていくこと。その積み重ねが自信につながり、障害を伝えることへの心理的な負担も和らいでいきます。こうした関わりこそが、失語症の方の社会参加につながっていくと、私は考えています。
また、現在の制度上こうした関わりは難しいことを重々承知していますが、社会参加に繋げる取り組みを意識したリハビリ、また退院後も共に社会参加を意識した取り組みが行える言語聴覚士が増えていけるよう働きかけも行っていきたいと思っています。




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